最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)1027号 判決 1960年9月09日
三重県多気郡三和町大字大淀乙七三七番地
上告人
合資会社 明造商店
右代表者代表社員
橋爪栄一
右訴訟代理人弁護士
窪田
名古屋市中区南外堀町六丁目一番地
被上告人
名古屋国税局長
上田克郎
右指定代理人法務省訟務管理官
河津一
同
大蔵事務官 市丸吉左エ門
同
同 天地武文
右当事者間の法人税審査決定取消請求事件について、名古屋高等裁判所が昭和三二年八月二〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があり、被上告人は上告棄却の判決を求めた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原判決中昭和二三年一月一一日から同二四年一月一〇日までの事業年度の所得金額に関する被上告人の審査決定の取消を求める請求に関する控訴を棄却した部分を破棄し、これに関する事件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
その余の部分に関する上告を棄却する。
前項に関する訴訟費用は、上告人の負担とする。
理由
上告代理人窪田 及び上告本人の上告理由について。
一、一年計算における所得金額に関する論旨について。
原判決を検討するに、
(イ) 原判決理由中二の(一)判示は、上告人が製造工程に半年以上を要する醤油(上告人のいう普通醤油)のみを製造していたことを前提とするものであることは明らかである。しかし、本件に現われた証拠のうちには、上告人がこれより製造工程のはるかに短かい醤油(上告人のいう代用醤油)を製造していたことを認めるに足りる証拠は一、二(例えば乙第二一号証、同第二二号証等)にとどまらない。されば原審が、これらの証拠について上告人が普通醤油以外の代用醤油を製造していたかどうかの点を審理判断することなく漫然上告人が普通醤油のみを製造していたことを前提として原判決の如く判示したのは、審理不尽のそしりを免れない。
(ロ) 原判決理由二の(二)、(三)の判示は、乙第一八号証(昭和二三年度仕込調書)に掲げられた仕込物の桶番号のうちに現存の腐敗モロミの桶番号が一つもないことをもつて現存の腐敗モロミが昭和二三年度の仕込物の腐敗物でないことの認定の一つの根拠としようとしたものと解される。しかし、同号証は、これに掲げられた仕込原料等からみても、正規の製造工程による普通醤油の仕込状況のみを掲げたもので、代用醤油の仕込状況は、これに記帳もれとなつているものとも解されないではないにかかわらず、原審がこの点につき審理判断した形跡はない。されば原審が、漫然、同号証は代用醤油を含むすべての醤油の仕込状況をもれなく記帳しているものであることを前提とし、これを基礎として現存の腐敗モロミが昭和二三年度の仕込物の腐敗物でないとの推論を下したことは違法というべきである。
(ハ) 原判決理由二の(四)の判示中乙第二一号証及び同第七号証に関する判示は、乙第二一号証に掲げられた原料塩の合計量と製造された醤油の合計量との比率が乙第七号証によつて証明された原料塩と製造醤油との比率に符合する等のことから、昭和二三年度中に投下された原料塩は全部有効に製品化したものと認むべきであるとの趣旨と解される。
しかし、乙第二一号証における原料塩と製造醤油との比率が乙第七号証における同様の比率に単純に符合するとは計算上認めがたいので、この点に関する原判示も首肯するに足りない。
(ニ) 原判決理由二の(六)の判示中「大量の腐敗の運命にあつた不良な仕込物に昭和二三年中に三、一八五なる大量の塩が投下され腐敗の為め浪費に終つたというようなことはなく従つて特段の反証なき限りこの塩は醤油製造に効果的に使用され且つ販売されたものと認めるのが相当である」との判示は、現存の腐敗モロミが期首引継当時においてすでに全部腐敗に帰すべきことが明らかな状態にあつたということを前提として、かかる状態のものに三、一八五瓩という大量の塩を無駄に投下することは常識上考えられないとの趣旨と解される。しかし、現存の腐敗モロミが期首引継当時においてすでに全部腐敗に帰すべきことが明らかな状態にあつたということは、本件において当事者間に争いがあるにかかわらず、原判決及びその引用する一番判決中いずれの個所にも、右争いある事実を証拠により確定した個所は見当らない。されば、原審が、漫然、現存の腐敗モロミが期首引継当時すでに全部腐敗に帰すべきことが明らかな状態にあつたとの事実を前提として原判示の如き推論を下したことは違法といわねばならない。
以上を要するに、問題の記帳もれ、塩三、一八五が昭和二三年度中に有効に醤油の仕込みに使用されて醤油の売上を生じたとの原審の推認は、上告人が普通醤油のみを製造していたこと、乙第一八号証の記帳が代用醤油を含むすべての醤油の仕込状況をもれなく記載しているものであること、乙第二一号証に示された原料塩による製造効率が乙第七号証のそれに符合すること、及び現存の腐敗モロミが期首引継当時すでに全部腐敗に帰すべきことが明らかな状態にあつたことを前提とするものであり、もし、これらの前提が覆えれば問題の塩三、一八五瓩が現存の腐敗モロミに投入され無駄に帰したとの認定に到達する可能性もないではない。してみると、原審が漫然右諸前提を基礎として、問題の塩三、一八五瓩が昭和二三年度中に有効に使用され醤油の売上を生じたとの推論を下したことは、審理不尽乃至理由不備そしりを免れず、この点に関する上告論旨は、理由があるものというべきである。されば原判決中、一年計算における所得(昭和二三年一月一一日から同二四年一月一〇日までの事業年度の所得)金額に関する被上告人の審査決定の取消を求める請求に関する控訴を棄却した部分は、その他の論旨の判断にまでもなく、右述の点において破棄を免れない。
二、半年計算における所得金額に関する論旨について。
論旨は、すべて、原判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背を主張するものと認められない。
よつて、民訴四〇七条、三九六条、三八四条、九五条、八九条を適用し、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)
昭和三二年(オ)第一〇二七号
上告人 合資会社 明造商店
被上告人 名古屋国税局長
上告代理人窪田の上告理由
第一点 原判決は判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違反があり且つ上告人の条理違反等の主張に対し判断を遺脱した違法がある。
一、原判決は法人税法第三五条第七項に違反する。
法人税法第三五条第七項によれば被上告人がなした本件審査決定処分には協議団の協議を経なければならないにも係らず原判決には右処分が協議団の協議に基づいてなされたとする判示がなく又被告人も原審における上告人がなした「本件決定は協議団から遊離してなされた」(控訴人の第三準備書面第二の(1)参照尚以下控、第三書、第二の(1)等の如く略記す)との主張或は「甲第二四号証に関し協議団が調査決定の上成した回答を否認した理由」に対する求釈明等につき何等の抗弁を釈明もしないのみか、成立に争いなき甲第二四号証(協議団が調査に腐敗物を現認し、その資料を押収し調査の結果発行した公文書)の主旨否認理由として被上告人は「協議団は単なる諮問機関である」と述べて協議団を協議機関として右処分に参加せしめなかつたことを示して居る従つて右処分は明らかに右法人税法に違背した時為であり違法である。
二、原判決は法人税法第三八条に違反して居る。
法人税法第三八条によれば「……裁判所が相手方当事者となつた……国税局長(被上告人)……の主張が合理的と認めたときは当該訴を提起した者、(上告人)がまず証拠の申出をなし……」とあるが第一及び第二審に於て左記につき上告人は被告人の主張が合理的でないと条理違反につき主張したに係らず原判決は何の理由も附せずに上告人の左記主張を排斥し何等確認を得る事なく被上告人の主張を容認したのは違法である。
(イ) 昭和二三年度期首現在脱脂大豆二九叺の一叺当り数量認定に当り被上告人は昭和二三年一〇月買入れた実績から推定し原判示又これを認めた、これに対し上告人は昭和二三年度期首現在品は被上告人の職権として右数量の実際を調査すべき義務があるから昭和二二年度の事実について確認すべきである事を主張した。
(ロ) 昭和二四年度上半期末原材料棚卸高につき被上告人は「棚卸高が第九号証の二では六一七、四七八円二八銭となつて居り被告主張の同棚卸は六五〇、一八三円九二銭となつて居るが、之はその後の調査で三二、七〇五円六四銭に相当する玉黍及び味噌があることが判明したから同号証の金額に加えた」(被第七書、第三ノ十九)と主張した処上告人は右玉黍及び味噌の計算が不合理である事(上告理由第四点の五及び同第五点に後述する)を主張した。
第二点 原判決は本件腐敗物たる醤油モロミの意義解釈を誤り判決に重大な影響を及ぼす判断を遺脱した違法がある。
一、原判決は醤油の種類解釈につき判断遺脱がある。
昭和二三年当時公団規格及び上告人工場の実情に於て醤油には次の二種類があつた。
(甲) 普通(醸造)醤油とは古来より伝わる醸造(麹菌等の 素作用により原料物料をアルコール、アミノ酸等に分解せしめる)法によるもの
(乙) 代用醤油とは当時の時局柄大豆等の主要原料を用いず専ら代用原料を以て而も短期に造る醤油類似の調味液而して右(甲)(乙)の相違は(甲)は公知の方法により作用を行なわしめたから普通六カ月以上を要し(乙)は原料中の有効成分の抽出を主目的とするから一般に一月乃至三カ月位の短時日で製品となつたものである。この事は原審に於ける原告会社代表者橋爪栄一の供述に於ても「普通仕込は半年以上かかり代用醤油は一日で出来る」と述べ(乙)の製造が(甲)の一般法と異る処は当事者間に争いなき乙第二二号証に明示されておるものである尚この代用醤油の存在については被上告人も右乙第二二号証の外に第一審準備書面(総合)(二八・六・二三)第三の(イ)に於て認めて居る。
斯く二種の醤油がある事を考慮に入れて判断すべきにかかわらず原判示に於ては腐敗代用醤油モロミを普通醤油モロミと誤解し普通醤油モロミの如く判断をして居るのは誤りである。
二、原判決は本件検証の腐敗物につき判断遺脱か理由又は審理不尽の違法がある。
原審に於て採用した第一審に於ける検証の結果「上告会社仕込倉には溜り式仕込による腐敗代用醤油モロミ四樽(この内一樽は味噌)又別棟に溜式仕込による腐敗代用醤油モロミ四本がある」事が確認せられて居る又被上告人も第一審においてその第八準備書面の五(被、第八書は二通ありこの分は二八・一二・一五提出分である若し二九・五・一一提出分を取れば本件はその(七)に記載されて居る)に「現存腐敗物は一本を除き他は全部醤油粕仕込である」と認めて居る即ち醤油粕とは既に第一次仕込により分解を終つた残り粕であつて主として代用醤油の調香(醤油様香り附与)材料として仕込まれたものなお右は代用醤油モロミである事を示すものであり上告人としては原判示理由二の(四)に示す通り代用醤油モロミであるとする事に異存はない。
然るに原判示理由二の(二)には「……他の七本については其の内容物は何れも醤油モロミの腐敗物であることに当事者間に争いがない」と判断しておるが右判示中「醤油モロミ」とは前記一の(甲)普通醤油モロミの如く解釈しておるものであつてこの解釈は間違つて居る。
三、原判示理由二の(二)に「……八本の内一本については控訴人に味噌の腐敗物でありといい被控訴人は味噌と醤油モロミの合体物…」として居るが実地に検証を行ない誰が見ても味噌であると判るものを右何れなりや判断をしなかつたのは違法である右に関し実地検証の結果一本は味噌である事を明示し(前記二)原審の証人田口長次郎も「検証の二五三号桶のものは味噌の腐敗物です」と証言して居り右判示は採証法則違反審理不尽である。
実地検証をしておきながら検証物が腐敗味噌なりや腐敗味噌醤油モロミの合体物なりや何れにも判断がつかず又その理由も明らかでない斯る判定は審理不尽、理由不備がある。
四、以上の如く検証の腐敗物の認定を誤つた原判決には次の如き違法がある。
(イ) 原判示理由二の(一)に「田口証言によれば醤油モロミは仕込んでから之を搾るまでには半年以上を要す……から昭和二三年に販売出来た醤油は昭和二二年中に仕込まれた……ものが相当あつた」と述べて居るがこれは田口証人に乙第一八号証を示して得た証言であり又原判示理由二の(三)に「乙第一八号証……によれば、その仕込桶番号と右(二)(検証)の腐敗物を包蔵する桶番号と一致するものが一つもない」ことを理由に昭和二三年仕込のものが腐敗しなかつたと判断して居るがこの乙第一八号証は一見して明らかな如く前記(甲)に該当する普通醤油を記載したものであり代用醤油ではないから相違するのは当然である然るに上告人が主張しておるのは前記(乙)の代用醤油モロミであるから右判示は採証法則を誤つたものである。
(ロ) 原判示理由二の(四)に「田口長次郎の証言……橋爪栄一訊問の結果によるも昭和二三年中に仕込んだ醤油モロミ中腐敗に帰したものがあつたとは認められない」とあるが右橋爪栄一の供述中に、「昭和二三年一月及び二月頃醤油粕をあけ塩を入れて」仕込んだと代用醤油が昭和二三年初め頃に仕込まれたことを示しこれが裏付けとして成立に争いなき第二一号証には香醤油(代用醤油の香味液)用として塩七、五六〇が投入されたことが立証されておる更に同人の供述に「上告会社をやめた時(昭和二三年秋頃)迄に腐敗と迄は行かないがプンプン臭つて居た」と昭和二三年夏期における腐敗進行状況を示し田口証人は「証人が入社した時(昭和二三年秋)検証の八本の腐敗物の中七本は既に腐敗して居り残り一本は腐敗に頻して居た」又「その残り一本も同年内に遂に腐敗した」と証言した。
右供述並びに証言によれば代用醤油モロミが昭和二三年中に仕込まれ且つ腐敗したことは歴然と認められるものであるのに右証言を採用しないのは不法である。
尚普通醤油モロミで昭和二三年に仕込んだものは乙第一八号証に示すものだけであつてこれが腐敗しなかつたのは右判示の通り上告人も認めた処である従つて右判示の「昭和二三年に仕込んだ醤油モロミ」は前記(甲)(乙)の区別を誤つて判断したものである。
(ハ) 原判示理由二の(六)に「昭和二二年度の仕込物で昭和二三年に引き継いだ醤油原料(乙第一号証の二にも醤油粕三、七五〇貫……)に対し二番搾りの為昭和二十三年度に塩を投じた……」とあるが乙第一号証の二に記載の醤油粕三、七五〇〆は塩水が這入つていないから仕込物でない(何となれば仕込物とは主原料に塩水を混合した状にあるものを云うので仕込物は経験法則上石数を以て表わし貫数では表わし難いものであるのに右粕は貫数を以て表わして居り且つ乙第一号証の二に示す右粕の値段から推して粕そのものであり仕込物ではない)から右「仕込物で……引き継いだ……原料」としたのは間違つている。
右に対し上告人が主張する処は原判示理由二の(四)に認めた「昭和二三年度期首に引き継いだ粕仕込粕」を用いて右橋爪栄一の供述の如く同年一月及び二月頃に仕込を行なつたが右粕の一部に腐敗の原因があつてそれが仕込後全部に伝染し検証の結果存在しておる腐敗代用醤油モロミとなつたものであるから原判決は判断を誤つたものである。
(ニ) 原判示理由二の(六)に「田口証人は……腐敗に頻した味噌に……救済しようとしたものが……あつたが前記(二)(検証)の醤油モロミに……塩を施したことは認められない」とあるが原審に於てする田口証言によれば「二五三号桶のもの(前記(三)即ち検証の味噌モロミ)は味噌である而してこのものを救済しようとして塩水、良質味噌等を投入した」と証言して居るのであつて右判示の如く「醤油モロミに塩を施した」とは証言しておらない従つて原判決は採証法則を誤つたものである。
第三点 原判決は本件腐敗物発生年度につき判断遺脱、理由がある。
一、原判示理由二の(四)に「成立に争いなき乙第二一号証……と成立に争いなき乙第七号証……塩の比率とを総合するに……同年度醤油モロミ製造に使用した塩の量……を比較検討するに其処に其の仕込醤油モロミ中腐敗物を生じた余地を認むべきものがない」として居り又原判決が引用した第一審判示理由中に「昭和二三年度中の正規帳簿上醤油販売に要した塩の量は一一、七五二であり記帳外に販売した醤油に要した塩は三、一八五である」(被、第七書第二ノ二(4)の(ホ)及び同(6)の(イ)を容認)として居る然るに右判示には左の如き誤りがある。
(イ) 成立に争いなき乙第七号証(この乙第七号証には醤油七一石七六升を造する場合塩一一、七五二を要すとある)については原判決事実掲示中に「控訴代理人は乙第六乃至八号証の成立は不知と述べた」と示しておきながら判示理由に於ては乙第七号証は当事者間に争いがないとなしておる原判決は事実誤認があり理由がある。
(ロ) 乙第二一号証によれば、昭和二三年中に醤油(代用醤油を含む)用として使用した塩の量は反号証の塩を合計して一四、一〇七となるのに右判示の通り一一、七五二を認め当事者間に争いなき乙第二一号証の右記載事実を排斥したのは採証法則違反であり乙第二一号証を排斥して右(イ)に示した如き成立にも争いのある乙第七号証の真実を追求せずに漫然とこれを認め被上告人の主張を容認みた原判決には理由不備がある。
二、原判示理由二の(六)の「そこで……前記(二)(検証物)の如き大量の腐敗の運命にあつた不良な仕込物に……三、一八五なる大量の塩が投下され腐敗の為浪費に終つたような事はなく……」とあるが右判示は上告人の左記の主張を取り違え審理不尽である。
(イ) 腐敗の運命にあつたものに投下した塩は原判示にも認めた(理由二の(六))「橋爪栄一の供述によるいくらか」と「田口証言による味噌救済に要した多少」に相当する若干量のみで原判示理由二の(六)に所謂三、一八五全部を腐敗物救済の為に使用したとは上告人は主張して居ない。
(ロ) 上告人が腐敗の為に浪費したと主張する大部分の塩は原判示理由二の(四)に認めた「昭和二三年度に乙第二二号証の方法により橋爪栄一が供述した如き仕込を行なつた粕仕込代用醤油モロミの約三分一量」と「成立に争いなき乙第二〇号証の腐敗味噌六〇五〆に証人田口長次郎の証言(原判示理由二の(六)による腐敗味噌六〇五〆を救済の為同証人が添加して出来た味噌モロミ」のこの二者それ自体に使用した塩である。(前記上告理由第二点四の(ロ)参照)
(ハ) 以上総合すると前記上告理由第三点一に述べた塩一一、七五二と一四、一〇七との差二、三五五の塩と右(ロ)に述べた乙第二〇号証並びに田口証言による味噌モロミに使用した塩約五〇〇と更に右(イ)に示す腐敗救済の為に要した若干量の塩との合計が昭和二三年度中醤油製造に当り浪費したものでこれが原判示理由二の(六)に示す三、一八五に相当するものである。
三、従つて原判示理由二の(六)に「前記の塩(腐敗物救済の為に投下した塩として原判示の認めた三、一八五の塩)の内幾分かは……空費されたとしても右塩の全使用量から推計……」としてその量は少量に過ぎないと判示して居る右判示の「幾分」とあるのは右二の(イ)及び(ハ)に述べた「腐敗救済の為に要した若干量」に当るのみであるから右判示の通り比較的少量であるがその外に右(ロ)及び(ハ)に述べた約二、八〇〇の塩を計算に入れなかつた原判決は審理不尽がある。
第四点 原判決は上告人の条理違反等の主張に対し判断遺脱審理不尽の違法がある。
一、上告人は甲第二〇号証の「腐敗品は昭和二三年及び昭和二四年上期に於て処理すべきものと認む」を以て本件腐敗事実を立証した処被上告人はその成立を認めたが立証旨を否認しその理由として「発行者協議団は単なる諮問機関であり本件決定後に発行された文書である」と抗弁した。これに対し上告人は右被上告人の主張では甲第二四号証に記載せられた事実は否定出来ないし且つ又甲第二四号証に対し取り消しの公文書も出て居らないからこれを同じ政府機関が否認する事は禁反言の原則にも違背する旨主張した。然るに原判決は何の理由も附せず甲第二四号証を排斥したのは理由不備、採証法則違反である。
二 原判示理由二の(五)に「前記(ニ)(検証)の現存する醤油モロミの腐敗物は……昭和二二年度の仕込物の腐敗物である」として原判決は上告人が主張する昭和二三年度の腐敗による損失を否認した。従つてこの損失は昭和二二年度の上告会社所得金に於て考慮せらるべきである処上告人は原審(控、第三書、第二ノ(2))に於て右損失が昭和二二年にも考慮せられて居ない事を陳述した。然るに原判決は右事情を顧慮して居らない、斯る判決は審理不尽である
三、原判示理由一に「乙第十四号証の二第一六号証は当審証人真弓金次郎の証言により真正に成立したものと認める」とあるがこれについて真弓証言中右乙号証が真正に成立したとするものがなく且つ左記上告人の主張に対し何等その排斥理由を述べて居ない原判決は理由不備、審理不尽の違法がある。
(イ) 上告人は第一審の証人橋爪政次、同古橋彦作の証言「右乙第一四の二同一六号証より甲第一〇号証が正しい」との供述があつたので右乙号証が不正である事を主張した。(控第三書、第一ノ四ノ(1))
(ロ) ところが右乙号証を正しいとして被上告人が計算した味噌原料受払には大豆使用量がマイナス一四石六三升となつた(被、第七書、第二ノ一ノ(7)右不合理につきなした上告人の主張「斯くマイナスとなつた根基は乙第一四号証のこの不合理からである」(原、第八書)に対し何等その排斥理由を附せず且つ右の如き不合理をそのまま容認した原判決は審理不尽理由不備である。
(ハ) 次に真弓証言を引用するが((内)は証言記録番号を示す)その何れを取つてみても右乙号証が真正であるとする理由がなくむしろ真正でないと認められるものである(控、第三書第一ノ四ノ(1))(20)真弓証人は「私は甲第一〇号証を見て居ません、乙第一四号証の二は甲第一〇号証を写して出来たものと思います」と供述し右乙号証の成立を確認するに足る証言はして居ない。
(19)「乙第一四号証の二の七、〇四四〆と合計がなつて居るのは間違いであつてどうして間違つたか調べませんでした」との供述は間違つて居る事を自認しながらその間違いが原本の写し違いであるかどうかも確めて居ない証人の供述を以て右乙号証の成立を真正となしたのは不法である。
甲第一〇号証は当時の公団所定の印刷により原料或は味噌の種類欄を表して居る処右乙号証は原料と味噌の種類を混同して(この為に右(ロ)のマイナス一四石六三升の大豆を使用したとなつたものである)記載されて居りこの点につき真弓証人に訊問した処(20)「私は乙第一四号証の二を作つたのでないからどうして原料欄が出来たか知りません」と供述したがこの供述によつても右乙号証が原本を真正に伝えるものとは云われない。
四、原判示には昭和二四年度に麦一〇石二四升を記帳外に使用して味噌を製造した(一審判示第二ノ三ノ(8))と判示しながら他方原材料仕入高三八九、五三九円〇銭中に右麦の代金を仕入として計上しておらないのは不法であるとの上告人主張を排斥したのは理由である。(控、第三書、四ノ(2))
五、昭和二十四年度上期の味噌受払い計算につき被上告人の主張から勘案すると当期間中に差引一、二二四貫の無い味噌を売つたことになる(原、総合第二補足書面第三ノ一ノ(2))処第審被告第七準備書面第三の一九によると右味噌が不足して居るに係らず尚余分の棚卸もれ味噌があるとし然し棚卸もれ味噌がありとする立証をして居ない、斯る棚卸もれ味噌を容認することが不法であるとする上告人の主張を排斥してその理由を明らかにしないのは理由不備、事実誤認である。
六、昭和二四年上半期末在庫塩の量を四、五八七と認定した原判決は審理不尽、採証法則違反、理由不備である。
(イ) 当事者間に争いなき乙第一九号証の二によれば「決算棚卸が間違つて居た然し昭和二四年度末在庫の塩の量四四〇は確実である」との意であるがこれについて上告人は原審に於て(控、第三書第一ノ七ノ(2))「乙第一九号証の二により最初申告した昭和二四年度上半期末在庫塩の量四、五八七は正しくないものであり昭和二四年度末(昭和二四年度下半期末)棚卸塩の量四四〇から推定して昭和二四年度上期末在庫塩の量は四、五八七より多くなる」旨主張した。次に乙第九号証の二は原判示事実掲示中に「期末棚卸額の各記載は何れも誤れる記載であると控訟代理人が陳述した」ことを示し被上告人も乙第九号証の二には棚卸しもれがある(被、第七書、第三ノ一九)事を認めてその理由は明示して居ないからこの乙第九号証の二は棚卸量を適正に示したものでない。従つて何等の理由も明示せずに乙第九号証の二に記載の塩の量四、五八七を採用して第一九号証の二を排斥した原判決は理由不備、採証法則違反である。
(ロ) 原判決が引用した第一審判示理由第二の四の(6)によれば「当裁判所が真正に成立したと認める甲第二号証……によつても右認定を覆すことが出来ない」として昭和二四年上半期末在庫塩の量を四、五八七と認定したが甲第二号証には六、三四四と示して居るから四、五八七とする立証なき限り六、三四四を採る可きであると上告人は主張した。
(ハ) 更に上告人は昭和二四年上半期棚卸額六五〇、一八三円九二銭の内容につき種々主張をした(控、第三書第一ノ七ノ(3))がその内特に被上告人が棚卸もれ味噌一九、三二七円(原審の証人真弓も認めたもの)が前記上告理由第四点の五に記載の通り味噌としての棚卸もれありとすることは不合理であり、これを塩とすれば当時塩の時価より一、七五七となりこれに上告人が最初申告した塩の量四、五八七を加えると六、三四四となり上告人の主張(甲第二号証)と一致する事を主張した。
以上の上告人の主張に対し原判決はその排斥した理由を明らかにせず第一審判示をそのまま引用したが斯る判決は理由不備、採証法則違反がある。
第五点 原判決は昭和二四年度玉黍の計算につきその認定に理由がある。
(イ) 原判決が引用した第一審判示理由第二の三の(8)において五石一三三合の欠減を認めたがこれは当事者が何れも主張して居ない事を判示したもので事実誤認である。
(ロ) 当期玉黍の購入量を一八石三三三合と判示(一審第二ノ三ノ(2)引用)として居るからこれから右(イ)の欠減を差引くと当期末在庫量は一三石二斗となる処当期末原材料棚卸高六五〇、一八三円九二銭中には被上告人主張を採用して玉黍二二石分の代金(乙第九号証の二と被、第七書、第三ノ一九との分)を計上して居るのは矛盾も甚しい。(控、準備書面30・10・25第一ノ五) 以上
○昭和三二年第一〇二七号
上告人 合資会社明造商店
被上告人 名古屋国税局長
上告人合資会社明造商店代表者橋爪栄一の上告理由
右当事者の昭和三二年(ネオ)第一〇五号法人税審査決定取消請求上告受理事件につき先に上告理由書(以下第一上告理由書と云う)を提出した。上告人は右を補足する為に次の陳述を致します。
尚左記上告理由を陳述する前に左記に関し原審において上告人が述べた従来の事情を取りまとめて述べる。
一審における藤具証人(当時松阪税務署法人税係長)の証言「腐敗品については唯その桶の間を歩いただけである」との如く簡単な調査を受けたものである。
次に審査請求を被上告人になした処名古屋国税局協議団津支部は詳細な調査(協議官延一〇〇人以上が係り腐敗品については資調査の結押収)又昭和二三年当時の公団検査官古橋彦作(一審証人)の立会認定を求めた等)を行ないその調査末期において料を果をまとめて原稿として上告人に示した。上告人はその記載事項が事実と相違ない事を認め右原稿を写して協議団へ提出した。この写して提出したものが乙第一九号証の一、二及び三である。而して右提出すると共に上告人は帳簿を乙第一九号証の一、二、三に合致する様に誤りを訂正した。甲第一及び第二号証は右訂正済の帳簿による決算書である。
次に審査請求棄却の理由を協議団に質問したその回答の一部として甲第二四号証を得同号証中「腐敗品は昭和二三年及び昭和二四年上期において処理すべきものと認む」との記事を信用し古橋元検査官が立会調査を行なつた、腐敗が認められるならば被上告人の本件処分は何処かに間違つた点があると判断して訴訟に及んだものである。
上告理由
原判決は左記の通り判決に影響を及ぼすこと明らかな法人税法第三五条第七項及び同法第三八条の違反があり且つ上告人の条理違反等の主張に対し判断を遺脱した違法がある。
一、乙第一九号証の一、二及び三は従来の事情(前記)から推して相当重要な証拠である。本件認定に当り右乙号証成立当時の気持ちを以て右乙号証の一字一句を慎重に解釈すれば誤つた判断は生じなかつた筈である。即ち本件調査には主として協議団のみを当らせておきながら協議団が取材した資料の解釈に協議団の意見を取り入れなかつた(事例は左に示す)のは法人税法第三五条第七項に違反する。
又乙第一九号証の記載事実に反して本件判決がなされたのは原審の上告人の第三準備書面第一の七(2)(以下控、第三書第一ノ七ノ(2)等と略記する)に述べた上告人の条理違反等の主張に対して判断遺脱がある。例えば
(イ) 乙第四及び第九号証の各二(昭和二六年三月三日成立(以下昭26・3・3等と略記する)の期末在庫量は乙第一九号証(昭26・5・26)の一により「今日(昭26・5・26)迄の(調査)証明により従来の在庫調書(乙第四及び第九号証)が間違つて居た」と立証し又乙第一九号証の二により「特に塩については棚卸高を許にしては事実と食い違う」事を示して居る。更に被第七書第三の一九において被上告人も「乙第九号証には味噌、玉黍の棚卸もれ」を主張して居るから乙第四及び第九号証は本件の証拠として真実を示すものとは云い得ない。
然るに被上告人は乙第九号証中の塩四、五八七は当期末現在量を正確にするものであると主張し原判決これを認めたのであるが何等理由を明らかにして居ないのは違法である。
(ロ) 被上告人は本件係争期間中に上告人が記帳外に販売した味噌、醤油の総額は(合計して)五〇五、六九九円八三銭であると主張し原判決も右被上告人の主張の大部分を認めた(腐敗品を救済しようとして浪費した少量の塩による損失を右五〇五、六九九円八三銭から除外)。然るに乙第一九号証の三によれば「製品を闇に一部流したがそれは極少量である」事を立証して居り上告人は乙第一九号証の三に従い訂証済みの帳簿(甲第九号証)に(合計して)一七、九〇〇円の記帳もれを加算して訴訟に及んだものである。従つて原判決は乙第一九号証の三の「極少量である」との点につさ採証法則を誤つたもので違法である。
二、証人真弓金二郎は一審において「本件に関係したのは訴訟になつてからである」(29・3・19)と訴訟における相当係官である事を表明している。その係官である真弓証人は原審において本件腐敗品につき「腐敗したかどうか実質的にあらゆる角度から調べたことはない」(32・3・20(18))と供述した処協議団は前記(従来の事情)にも述べた通り資料を押収し又古橋元検査官の認定を求め(この事は古橋証人の証言及び乙第二〇号証により明白である)種々腐敗品につき調査を行なつて居り右真弓証言と食い違う。右は本件決定処分並びに訴訟が協議団と無関係に行なわれている証左である。従つて斯る決定処分並びに判決は法人税法第三五条第七項に違反する。
三、記帳外販売につき被上告人の挙げた根基は「月報による報告がなかつたから腐敗は認められない」(被、準備書総合第四ノ三)と云う事と「計算上原料が余る、この余分の原料から出来た製品を闇売した」(被、第七書第二)との二つである。而して前者については「月報云々」は原判決も採用しなかつたが他の面から腐敗を否認したがこれが不正があることは第一上告人理由書に述べた通りである。さて後者即ち本件の計算についても第一上告理由書に述べた処であるが又左記の通り不合理があることが判然として居るのにその理由証拠を被上告人に対し追求しなかつたのみならず何等の理由も附せずにその不合理を容認した原判決は法人税法第三八条違反であり判断遺脱の違法がある。
(イ) マイナス一四石四六三合の大豆を使用したとの主張(被、第七書第二ノ一ノ(7))は明らかに不合理でありこの不合理は乙第一四号証の二の誤りをそのまま認めた事に起因するとの上告人の主張(原、第八書)を排斥して右不合理な被上告人の主張をそのまま容認して理由も示さない原判決は違法である。
(ロ) 味噌受払い計算が不合理である。(控、求釈明書第四ノ三)。又原審における真弓証言においても右計算が不合理であると認めた処被上告人の斯る不合理な主張を容認して理由も示さない原判決は違法である。
(ハ) 第一上告理由書に述べた麦(第四点ノ四)、玉黍(第五点)等の計算が不合理であるのに被上告人に対しその理由証拠を追求せず又その理由も明らかにしなかつた原判決は違法である。
四、尚被上告人は麦一一石八斗を其の個所より買入れた(被、第三書第二ノ一ノ(2))と主張しながら当期仕入金中に右麦の代金を算入して居ないのは不合理である。又原審における真弓証言中( ・3・ (23))「上告会社が麦一石二四升を橋爪から無償で譲渡を受けたと解釈した」と供述したがこれは右被上告人の主張と違つて居る。然るに右何れを採用したか判示しなかつた原判決は理由不備である。(控、第三書第一ノ四ノ(2))
五、成立に争いなき乙第一九号証(以上記載の諸事項)、同第二〇号証(味噌六〇五〆が当期に腐敗)、同第二一号証(昭和二三年中に醤油用として使用した塩は一四、一〇七)及び甲第二四号証(腐敗品は本件係争期間中に処置すべきもの)を排斥した原判決は理由不備、採証法則違反である。
一審の証人橋爪政次、同古橋彦作、同田口長次郎等の証言及び上告会社代表者中山長太郎(当時)、同橋爪栄一(在)の訊問の結果により昭和二三年度に相当量の腐敗代用醤油モロミ(内一本は味噌)が発生したとする上告人の挙証を排して同年中には少しも腐敗物が発生しなかつた(腐敗物を救済したことは認めたが)と判示した原判決には採証法則違反、理由不備がある。 以上